旅館を経営している親戚がいたので、小さいときはよくその旅館の温泉に浸かりに行っていた。
沿岸というのもあり、海水が混じるのか少ししょっぱい温泉だった。
そのため私は天然の温泉は全て塩味がするものだと思い込んでいた。
十数年前に、目の前に海が広がる温泉付き高級マンションが近所に建った。
新築かつ交通の便も良いのもあり、そのマンションの部屋はすぐに完売。
別荘として購入する人もいれば、早期リタイアして終の棲家として選んだ転居者も多かった。
だが数年たつと、そのマンションを手放す人が多発。
当時の私が大人になったら買うんだと夢見ていたマンションだったから驚いた。
数年前、あのマンションに住んで1年で手放した人に、住むのをやめた理由を聞く機会があった。
細かい話は省くが、手放した原因が温泉の売りであった「温泉」と「海」だったらしい。
なんてことはない。
塩分濃度が高い温泉に肌が馴染まず、皮膚炎を起こす住居者が多かったらしい。
さらに潮風がベランダの手すりや車を錆びさせてしまったり、台風の時にうちあがった魚の
生臭さに心が折れたとか。
たしかマンションが建った当初、宝くじが当たったらマンション買って一人で住むと言っていた母ですら
「あのマンションは買いたくないな」と言っていた気がした。
母は塩害がどのぐらい生活に影響を与えるのかが分かっていたのだろう。
なるほどなぁと、当時の私は将来家を買うなら海に近い物件は極力避けようと決めたのだった。